『はみだしっ子』@ABCホール
8歳の時、文学座の伝説の舞台、杉村春子さんの『女の一生』に連れて行かれ、当時70代だった杉村春子さんが、舞台では16歳にも30歳にも見えたり、同じく70代だった加藤嘉さんや60くらいだった北村和夫さんが詰襟を着てきたらかわいい大学生に見えるのに驚いた。一人の平凡だが運命に翻弄される女性が戦争をはさんで強く生きるのだが、好きな人とは一緒になれず複雑な思いを持って結婚し・・・とかそんなことはまだ全然わからず(大人になってもう一度見たら全く違う印象で感動した)ただ、舞台で「仮面をかぶる」という作業のすごさに圧倒されたのだ。
それ以来すっかり舞台芸術のファンであるわけだが、この私のお気に入りの小さな劇団、スタジオライフは、全くこの私の舞台観客デビューの時の感動をひたすら再現してくれる人達の集まりだ。役者さんは男性だけで、オジサンたちが、ギムナジウムやイギリスのパブリックスクールの制服を着て大真面目に子供やティーンイジャーを演じてくれる。時にはかわいい女の子や怖いおばさんや優しいお母さんも演じてくれる。
歌舞伎と宝塚が大好きな家庭で育ったので、クロスジェンダー(女形とか男役とか)の演技はけっこう好きでそれもこの劇団は楽しめる。
それに加えて、この劇団の座付き演出家は倉田淳という女性で、私と同じ世代なので、昭和の少女漫画を翻案してくれて上演してくれる。萩尾望都、竹宮恵子の世界を日本人が舞台で演じるというのは、どうなんだろうと思って最初『トーマの心臓』を見に行ったら、役者さんたちがあまりに役にはまっているので、驚いて大ファンになった。ちなみに私の押しメンは、その時トーマを演じていた松本慎也さんだ。
一年に一回はスタジオライフが見たいなあと思っているのだが、今までなかなか大阪に来なかった。2年前この劇団が常打ちしているシアターサンモールという新宿のメッカ(?)的な劇場に行けたのでうれしかった。その時は女子高の物語で、みんな可愛くて、女子高出身の私も娘も舞台を観てかなり盛り上がった。
そんなスタジオライフが『はみだしっ子』に挑戦してくれた。これは、もう「子ども」の話なので、パブリックスクールとはわけがちがう。アンジーやサーニンはどう演じるのだろう?なんて心配はもちろん、舞台を観てふっとんだ。スタジオライフらしさが表れている、シンプルで夭逝した漫画家、三原順の世界があふれている作品に仕上がっていた。よく考えたら、グレアムはもとよりアンジーなども漫画の台詞を見たら当時読んでいた私なんかよりよっぽど大人っぽい台詞をはいていたのだから、別に大人が演じてもぜんぜん、OKなのだ。
この漫画はかなり中高時代はまっていた。親との確執に悩んでいない中高生はいないので、主に親に捨てられて親子関係と世の中に出て行くイニシエーションの世界を描いた物語は、ナイーブな主人公たちにすごく感情移入できるものだった。
特に岩崎大さんは、グレアムそのものだった。なんかビジュアルもすごくグレアムだった。でかいのに子供に見えた。山本芳樹さんはまあ、この劇団の一番古いメンバーの一人だし、メインのキャストをやる人だからしょうがないのだけど、いつもあまり若者に見えない(ごめんなさい)。でも皮肉屋さんの役がはまる山本さんだからアンジーはなかなか良かった。サーニンとマックスは、ちょっと変わったキャラだし、弟キャラだからある意味若い人が丁寧に演じればいいのだと思ったけど、サーニンの緒方和也がすごく面白かったし、マックスの田中俊裕さんもちょっと自分のガラとは違う感じに演じていて上手だった。
もうとにかく岩崎さんにグレアムが乗り移っていてすごかったと思う。バスで旅をする4人がぼーっとした光の街灯の下にたたずんでいる漫画の絵づらはすごく有名だけど、これを舞台にメインで再現している。
シンプルな舞台装置ながらすごく良かったと思う。
これは、スタジオライフの貴重な当たり狂言になったのではないかと思った。